マルチセルラの自作を考えたが、べニヤ細工は苦手、工数も多く手本が無いのでリスクが多すぎる。
買った方が良いとの結論だが、買う物も無い。

パイオニアMH-300マルチセルラーホーン

偶然、本当に偶然Y’オクで出会いました。
パイオニアMH-300マルチセルラーホーン

今までAltec 811Bを使用しそれなりに満足してきました。
ポン置き、何れ取り替える予定かと思い、仮置きのままで、中央部がうるさく感じる事もありました。
他にYL CO-800改、EVの定指向性等、数種取り替え実験したが、大して変わらず元に戻した。

Y’オクで面白いものは無いかと覗たら、偶然 MH-300を見つけました。
存在さえ忘れていたホーン、幅516×高さ235×奥行500mm。
大きすぎず、小さすぎず理想の大きさです。

性能は解らない、パイオニアの音作りは定評があるので…。
スロートはオリジナルではない、本体は手を加えていないようだ。
ま、いッか! 気合を入れて入札した結果、無事落札。

外形とスロート

外形とスロート

名板はエッジング加工、今では考えられない。高級品の証し。
記載内容から見て1950年代モノラル時代の製品のよう、ノーメンテ。

セル内部はゴールドに塗装されている、前面は漆塗りのよう暗茶色、6mmシナベニア製、丁寧な作りで、さすが日本製と感じる。

写真では綺麗、オークション説明でも上物らしい?。
現物は、側板の剥がれ2カ所、ベニアの層間剥離、表皮剥離、正面の当て木の剥離などガタガタの状態、ベニアはこれだから嫌いだ。
この状態では、試聴する気にもならない、参考にもならない。
私が40年前に購入したシナベニヤの残材も剥がれてきている、国産は良くないのか?
無垢の木ならクラックが入ることもあるが修理は容易だ。

前オーナーが取り付けたスローとを外す。
スロートはJBL製、ターミナルの跡か、カットされている。
溶接して修復する必要がありそうだ。
このスロートのフランジ部に斜めに穴をあけ、本体の側板に木ねじで止められている。
穴の加工精度は見事、ただねじ穴の補強がされてないのでベニアが割れて剥離を起こしている。

ホーンの入り口のサイズは 横50mm縦47mmに対し、スロートの出口は36mm角。
さすがに無理、ミスマッチング、作り直す。

ホーンの入り口

入り口、中を覗くと想像以上に複雑な加工。
音波を反射する障害物を極力排除しょうとする意図が見とれる。
手持ちのボロカメは近接時のAF不良で全部ピンボケ。(写真なし)

縦のセパレータ(セルの横接合部)は薄く削られ、刃物のように鋭利な先端。
横(セルの上下接合部)は強度保持か2mmの厚みがあります。

811B等のセクトラルホーンほど極端ではないが、入り口から中に入ると、中央部が鍋底のように上下が狭まり、セルの高さに(47→42㎜)。
サイド部は入り口から直線的狭まりセルに接続される。
球面加工→ダイヤカットに連続変化し、円周状に配置されたセルの入り口とぴったり合う。
接着強度は弱く、喉元も剥離が3カ所、あります。

セル1個分入り口の大きさは、横24mm縦20mm(計100×42㎜)で横幅が広くスロートとの接続には不利。

他のメーカーのように入り口を縦スリットにすれば、スロートと接合が楽になるのに?

正角で横5セルにした方が一般的で加工が楽なのに?

セルは長方形で、出入り口比が同一の方が音質的に良い?

修理方法

①アロンアルファで全周再接着

②石膏で固める

③スロートの再考

④全体の強度アップ

用意した接着剤はアロンアルファ、エポキシ系のボンドクイックメンダー、クイックセット、E205、用途に合わせて使い分けします。

セル入り口 セパレーターの修理は、強度を上げるため、全面にアロンアルファをたっぷり含浸。
入り口を下にして立てて硬化させる。
少量では瞬間接着だが多量では24H必要。
アロンアルファが、セパレーターに滲み出て、先端が盛り上がる、これを丁寧にヤスリ掛けをして鋭利に仕上げる。

これで2mm厚の横セルセパレーター(仕切板)も刃物のように鋭利になりました。
音波を切り裂き、音波を反射する要因が無くなる。

付属のスロート 100㎜(フランジ100x100) は長いので、短い物 60㎜、(開口面積は同じ、フランジ90x90)を調達、7個の穴が開いたマルチ仕様の物に取替

中間のアダプタはスロートとホーンを実測作図、カットオフを100Hz上げる予定、理想的なカーブを描いて長さを26㎜に決めました。(付属のスロートでは38㎜必要)

精度を上げるため、13mmの集成材2枚を別々に加工して接着した。

材料は名を忘れたが、柔らかい木を用いた。
これはカッターナイフで精巧に加工ができます。
出口は少し削り代を残す。
ホーンの入り口は、手作りのため、少し歪んだりしているので、ぴったり合うよう現合で仕上げます。

完成したらE205(アロンアルファも可)を含浸させ強化。
固い木を使用する必要なし、固くすれば良い。

本体との接続

本体との接続 オリジナルの形態を可能な限り残す。
本体との接続は、アルミ5㎜厚の MU-20 用オリジナルスロートを取り外した跡(切込みが放置されている場所)にねじ代として、3㎜桧の経木と3mm真鍮板を接着。
ここにねじを切ります。桧部に3㎜ドリルで深さ30㎜の穴をあける。4㎜のステンレスのタッピングビスを無理矢理ねじ込む(ネジが真鍮板に邪魔されて逃げる)
アロンアルファを3滴程、上から見れるまで滴下
2~3分後には吸収されるので、タッピングビスにCRC油を付けてゆっくりねじ込み、止めずに逆回転して抜く。
そのまま24時間乾燥させる。これでネジ穴強化されます。
これは他のネジ穴の強化方法と同じ。
(注意:アロンアルファで強化する時は、タッピングネジのネジ山が無い部分の太さのドリルで下穴を空けること)タッピングビスの頭を削りタップハンドルに取り付け、CRC油を付けてねじ込む。
キーキー音を発してなかなか入らない。
回しては戻し、何十回も繰り返すと、真鍮板にネジが切れます。(アロンアルファより真鍮の方が柔らかい)
新品のネジで音が出なければ完成、がっちりスロートアダプタが取りつきます。(4㎜桧に真鍮2㎜が楽かも)
オリジナルスロートよりシールが完璧に、取付け強度も飛躍的に上がる。
取り外しも楽で、ネジ山の摩耗も皆無です。
中間アダプタは簡単に交換できるので、異なるスロート、場合によっては 1 1/2ドライバーも接続は可能。
オリジナルスロートは取り付け不能に、現状復帰には真鍮板を加熱して取外すことになる。

べニア全体の修理

べニア全体の修理

本体前面の修理はとても面倒。
セルの外れや剥離は比較的早く修理できましたが、当て木の収縮で隙間や、べニアの層間剥離によるズレの調整など、1日3時間として全体で20日ぐらいかかりました。
ベニヤはこれだから嫌いです。

元の接着部とベニアの木口にアロンアルファを吸収させます、アクリル系なので強度が上がる、湿気吸収を防止。

最後にE-205を全面に吸収させ、表面を強化して湿気によるベニアの剥離を防止します。

デッドニング 砂入りへ

マルチセルの隙間は埃のたまり場、湿気を吸い、利なく百害あり、簡単でクリスキットに習い、石膏で固める予定。

石膏2kgx3を購入してあるが、全面表面強化の状態、湿気を通さない、結果、石膏が何ヶ月も乾燥しないのではないか?
古いベニアに致命的なダメージを与えないか心配になってきた。

「砂入り」なら問題なく、直ぐに使用できる、複雑になるがやむを得ない、路線変更。

重量の増加は出来る限り避けたい、年のせいで最近特に思います。
必要最小限で良いと思う。

E-205でべニアと砂の接触部を樹脂モルタル化する。
本器のような少量砂入りの欠点はベニヤの振動が砂に伝わりきれず、空振動を起こすことがある。
ベニヤと砂の接触部を一体化することにより、強度を上げると共に、動きにくくする。
また振動エネルギーを拡散して、砂全体で減衰吸収します。
石膏で全体を固めるより強力な制震力が期待できます。
(石膏は乾くと結構振動します)

セルの隙間、ヘッドの穴は厚紙で型を取り、6㎜厚の妨震材をカットして塞いだ。
オリジナルデザインを尊重して、目立たないように表面より2㎜控えて接着しました。
通気性は無く、砂の乾燥状態は保持される。

開口部 (頭)は容積が多く、軽石を使用。
2mmと6mm目のふるいで分けた、サンゴ系軽石を水洗後、加熱乾燥して封入。

胴体部はモルタル砂を使用しました。
加熱乾燥後4mm目で荒いものを省き、風選で0.5㎜以下の微粉を飛ばします。
湿気の吸収無く、サラサラで流動性良く、奥深く充填できるようになります。

E-205を油差しに入れ、基部と空隙の交差点に注入し、内面べニアに全面塗布、(要所を樹脂モルタル化、ベニヤと一体化、剥離を防止)します。

MH-300は幸い頭が大きくて、砂を入れることにより制震効果が強く、全面カバーは不要、重量を押さえた方が地震対策も楽、胴体を叩いた音は石のような感じで問題なし。

最終の接着剤使用量はアロンアルファ100g、クイックメンダー25g、クイックセット40g、E205 2㎏
接着剤だけで¥20000近くの出費です。

塗装の変更

塗装の変更

全体 頭裏に上下共3個窓があるが、更に両側に有った2個を蓋した。

前面

前面

前面

横面

塗装は黒の艶消しに変えました。

ゴールドは太陽光下では綺麗。
部屋で見ると茶色、ベニヤみたい。

マスキングも面倒で省略。
塗装はいつでも変えられる、都合の良い判断。

お祭り飾りのような面から、精悍な面に変身。
複雑なカットの面は威風堂々として、仁王様のような迫力が出てきました。

まずTD-2001を取り付け「新旧のご対面」
昔のイメージは微塵も無く新鮮、塗装でこれほど変わるとは。
ただし骨董品としての価値は”0”に….。

802Dを移植して試聴

altec802Dを移植

壁の丸い板は地震対策(転倒防止)

811Bを撤去して802Dを移植して試聴する。(1500hzクロス)
ステーはステンレスで製作、簡単な構造、差し込みネジで高さ調節。

短いスロートの効果?指向性も品書きどおり広角、ホーン隅部はレベルが落ちますが
90°位は完璧で、部屋に横置き設置でも、聞く位置を気にしなくてもよい。

「マルチセルラーホーンはセルの干渉で高域が落ちる」との記事も。
どうして干渉するのか浅学の私にはわかりません。
また「音がソフトになる」とも聞きました。
もしかするとセルの入り口で、セル仕切り板の厚みによる反射が影響しているかもしれません。

1500クロスだから?
高域も気が付くほど落ちないし、鮮度も良い、他のマルチセルと比較試聴したこともないので解らない。
811Bよりは明らかに聞きやすく、明瞭である。

パイオニアMH-300マルチセルラーホーン改造完成

偶然の出会いで宝物が増えました。
さすが古くても一流メーカー製、多くの試作を経てMH-300を製品化したようで、基本的に良く出来ている。

最後に、MH-300をオブジェにされている方は是非現役復帰させてあげてください。
その労力は十分報われます。
(2012年10月記、2017年改訂、転記)