実生は子孫を残す

胡蝶蘭も庭の花も母花の雌しべに父花の花粉が付き後世に子供を残します。

雑草は大量の花粉をまき散らしたり、開花しなくても自家受粉で結実して繁殖するものも多いです。
最近の乾燥地に生える草は生えてきて2週間程度で種を付ける物もあります。
このため一旦繁殖させてしまうと手に負えなくなります。

虫や鳥などに交配を委託している植物は自然界の環境が変わると虫がいなくなって繁殖することが出来ません。
乱獲が拍車をかけ消滅の道をたどります。
どこにでも見られた日本の蘭
サギソウ等の湿地、岩場のウチョウラン、山中のエビネ、樹上のフウランとセッコク、すっかり姿を消してしまいました。

時期になると繁殖されたものが園芸店頭に並びます。
これらの繁殖された花は自然界の花ではありません。
繁殖過程でウイルス汚染されています。
斑入りが珍重されますがウイルスによる斑入り、ねじれた葉はほぼウイルスにより生じたと考えて間違いないです。
自然で見られるサギソウはまっすぐに伸びたグリーン一色でとても清楚です。
厚い葉を持つフウラン、セッコク、などの蘭は症状を全く表しません。
シンビジウム系は良く見れば分かります。

植替えで手、器具から感染するので1鉢ごとに手袋、棒などを替える、ハサミを株ごとに焼いて消毒、古い鉢は使わないなどで防止できます。
当然汚染株の下には何も置いてはなりません。
汚染植物を栽培したベンチはバーナーによる過熱、ペイントによるマスキングでリフレッシュします。
消毒薬の散布はどのような薬品でも効果はありません。
感染株は一生保有、分離飛散した蘭のウイルスは5年以上、10数年も感染能力があります。

結果から一旦ウイルスを大量に持ち込んだら回復は不可能です。
販売されているものは汚染されてい可能性が多いので趣味とわり切って栽培します。

しかしその株を自然界に帰しては絶対してはいけません
自宅の木に付けるのは勝手ですが。

サギソウを昔見られた湿地に戻すとそこで自然繁殖したものは全て感染し、湿地全体が汚染されます。
永久に無害化できません。

蘭のウイルスCMVやORSVはラン科植物だけでなく、多くの雑草、野菜、果樹に感染が確認され、生育障害、収穫物の変形が
出ます。

ウイルスの継代感染を防止するのは実生以外ありません。
専門家による適切な実生方法に頼る以外ありません。

サギソウやエビネの産地復元は実生で得た苗を検査して、安全を確認してから戻しましょう。
長い年月と根気が必要です。

たまあんの作る胡蝶蘭は実生が基本

実生から開花まで5年位の年月が必要です。
それを製品化するにはさらに5年。

種が熟するまで0.5年

苗が完成2年

開花まで成長2年

品質検証1年以上

増殖苗を作る3年

完成出荷2.5年

計10年の長い月日が必要です。
たまあんも高齢で多分居なくなってると思います。
でも毎年続けます。
生きているかぎり。

外国の苗屋の製品を調達だけでは何の楽しみもなく、
日本の風土に合った品種は永久に望みられません。
胡蝶蘭の栽培を自負するのであれば1品種でもよいので健全なオリジナル品種を持ちたいですね。

実際の交配

胡蝶蘭の花の拡大写真

胡蝶蘭の雌しべと花粉

交配する胡蝶蘭の花粉を採取して下より雌しべにくっつけるこれで終わり。
ピンセットなど使用器具はバーナーによる加熱消毒を忘れずに。

実が大きくなってきた採取日が近い。

胡蝶蘭の種子

大輪の胡蝶蘭は比較的簡単に結実しますがミディ系は過去に複雑に交配されているので実が入りにくい。
ミディけでもアマビリス等、原種に近いものは比較的簡単です。
とにかくやってみなければわかりません。

交配のメモを書き留めましょう。
例 amabilis x Yumemai ….年..月..日
約束事 前は母株 後ろは花粉親 原種は全部小文字 交配種は頭を大文字で書く
参考(amabilis x amabilis)にはamabilis x sib(異なる株の交配) とamabilis x self(自家交配)
表現を分けます、生まれた新苗はamabilis に変わりはありません。

特に日付は後日採取日の目安を付けるのに重要です。

4ヶ月程から注意します。
実が黄色くなってきたらを割ってみて中が黄色い綿のようで埃のような小さい種子が確認出来たら完熟、、即播種作業、または委託します。
バナナのようでしたらも少しです。
そのまま放置すると裂果して雑菌が侵入して播種作業が困難になります。

胡蝶蘭の種は何故生えないのか

たまあんも昔は専用の部屋を持ちたくさん苗を作っておりました。
数が少なくなってきて設備の維持費の方が高くなり今は委託しています。

種子は細胞の元となる胚芽と栄養分となるデンプンを持っています。
水分、温度などの条件が揃えばデンプンの栄養分を吸収、発芽して成長してゆきます。

胡蝶蘭の種子は胚芽だけで栄養分を持っていないのです。
自然界では俗にラン菌と言われる胡蝶蘭と共生する細菌がいます。
この菌はごく限られた所に少し居るだけです。
このラン菌から栄養補給を受け発芽、成長するのです。

このラン菌に出会う確率は極めて低く宝くじで1等を当てる位なのです。
胡蝶蘭は1個の実の中に10000粒以上の胚芽を大量に作り、空中に放出、運を天に任せます。

この胚芽に無菌状態の中で人工栄養を与え発芽させるのです。
成長は極めて遅く、発芽当初の細胞状態(プロトコーム)から5㎝程度の栽培可能の大きさになるまで2年もかかります。
その間は無菌環境の中で保護が必要なのです。
何故保護が必要か?
それはラン菌が作り出す完璧な栄養を人工的に作り出せないので軟弱、病気に侵されるからです。

帰ってきたフラスコ苗

委託先から帰ってきた胡蝶蘭のフラスコ苗、瓶1本あたり15本苗が入っています。
今から自然環境で育てるのです。

胡蝶蘭フラスコ苗

これを取り出して50本纏めて仮植します。
胡蝶蘭幼苗よせ植

同一品種の3か月後
胡蝶蘭小苗よせ植
この品種はamabilisで原種同種の交配であまり葉の変化は見られません。
5ヶ月後、9㎝ポットに植え替えます。
胡蝶蘭中苗
1年後あと少しで開花準備に入ります。
胡蝶蘭大苗
ミデイはこのまま咲かせます。
ずいぶん時間が掛かりました。
このように全く採算を無視し、かつ根気がなければできる物ではありません。